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水戸地方裁判所 平成3年(ワ)405号 判決

原告

久保田芳則

右訴訟代理人弁護士

高山征治郎

東松文雄

亀井美智子

中島章智

野島正

枝野幸男

被告

水戸レイクスカントリークラブ株式会社

右代表者代表取締役

小平真一

右訴訟代理人弁護士

船田録平

主文

一  原告と被告との間で、原告が水戸レイクスカントリークラブ理事会の入会承認を停止条件とする別紙目録記載のゴルフ会員権に基づく個人正会員としての地位を有することを確認する。

二  原告の主位的請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

第一  請求の趣旨

一  主位的請求

1 原告と被告との間で、原告が別紙目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

2 被告は原告に対し、別紙目録記載のゴルフ会員権につき、原告への名義書換手続をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 第2項につき、仮執行宣言

二  予備的請求

主文同旨

第二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者の主張)

一  請求の原因

1  被告は、ゴルフコース等を所有経営する会社であり、水戸レイクスカントリークラブは、被告所有のゴルフコース及びその付帯施設を利用し、ゴルフの競技を通じて、会員相互間の親睦を図ること等を目的として、被告が募集した会員によって組織された倶楽部である。

2  訴外高橋孝吉は、別紙目録記載のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という)を有する水戸レイクスカントリークラブの会員であったが、平成二年七月二一日本件会員権を原告に譲渡し、同月二三日その旨を被告に通知し、その頃右通知は被告に到達した。

3  ところで、本件会員権は、いわゆる預託金会員制ゴルフ会員権であり、それは水戸レイクスカントリークラブの会員が被告に対して有する契約上の地位をいい、その内容として、会員は、被告が定めた会則に従い、被告の経営するゴルフコースを優先的に利用できる権利及び年会費納入等の義務を有し、入会に際して預託した会員資格保証金を一五年の据置期間経過後に退会とともに返還請求することができ、またこの会員たる地位をクラブ理事会の承認を得て、他に譲渡することができるというものである。

4  原告は、本件会員権の譲渡につき、水戸レイクスカントリークラブの理事の承認を得ていないが、同クラブの入会資格としては、①原則として日本国籍を有する者、②禁治産者又は準禁治産者等でない者、③暴力又は脅迫等、クラブの円満な秩序を乱すおそれのない者、又はそのように判断されない者とされており、原告は、このような入会資格に欠けるところはないから、クラブ理事会としては、本件会員権の原告への譲渡の承認を拒否することはできないというべきであり、したがって、被告としても、本件会員権の原告への名義書換手続を拒むことはできないものというべきである。

5  然るに、被告は、本件会員権が原告に帰属することを争い、原告への名義書換手続を拒んでいる。

6  しかし、原告は、前記のとおり本件会員権を譲り受けたものであり、少なくとも、水戸レイクスカントリークラブの理事会の入会承認を停止条件として、本件会員権に基づく個人正会員としての地位にあることは明らかであるから、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、訴外高橋孝吉が本件会員権を有する水戸レイクスカントリークラブの会員であったこと、平成二年七月二三日頃同人から本件会員権を原告に譲渡した旨の通知が被告に到達したことは認めるが、その余は不知。

3  同3の事実と主張は認める。

4  同4の主張は争う。

5  同5の事実は認める。

6  同6の主張は争う。

三  被告の主張

1  仮に、原告が訴外高橋孝吉から本件会員権の譲渡を受けたとしても、それを被告に対抗するためには、水戸レイクスカントリークラブの理事会の承認を得なければならないが、その承認を得ていないことは、原告の自認するところである。

2  水戸レイクスカントリークラブの理事会の承認を得るためには、会員資格保証金預託証書を始めとする被告が名義書換に必要と定めた書類を提出し、理事会の書類審査と面接審査を受けなければならず、理事会の承認があったときは、名義書換手数料を支払い、所定の入会手続をすることとなっているが、原告は、名義書換に必要な会員資格保証金預託証書を所持しておらず、したがって、被告としては、原告からの名義書換申請の受付をすることができないのである。

3  被告が会員資格保証金預託証書のないことをもって、原告の名義書換申請を拒否することについては、次のとおり合理性がある。

(一) 本件会員権の会員資格保証金預託証書は滅失したものではなく、第三者が現にこれを所持しているものであるところ、原告が本件会員権を譲り受けたとすれば、本件会員権は二重に譲渡されたこととなるが、原告が自己に対する譲渡を会員資格保証金預託証書を所持する第三者に対抗できるのであれば、原告は、同証書の引渡を請求できる筈であるから、その引渡を受けて、被告に対し名義書換の手続をすれば足りることであり、会員資格保証金預託証書の添付なくして名義書換手続を是認すべき特段の事由はないというべきである。

(二) 本件においては、本件会員権の原告への譲渡が第三者に対抗できることが確定されていない以上、第三者が本件会員権の会員資格保証金預託証書を添えて名義書換の申請をすることも予想され、その場合被告としては、対応に苦慮することになるし、訴訟となった場合、その応訴に費用と労力の出損を余儀なくされることは必定である。更に、多数の会員を擁する水戸レイクスカントリークラブにおいて、会員資格保証金預託証書を要せずに名義書換を認めることは、定型的な事務処理を行うことができず、被告は、その都度個別の対応をせざるを得ないこととなるが、その負担は無視できるものではない。こうした被告の不利益を考慮するならば、被告が名義書換に会員資格保証金預託証書を要求するのは当然であるというべきである。

四  被告の主張に対する認否と反論

1  被告の主張1の理事会の承認は、あくまで入会の要件であり、本件会員権の帰属は債権譲渡の要件に従って決定されるべきものである。

2  被告の主張2のうち、通常の場合の理事会の承認手続と入会手続がその主張のとおりであること及び原告が会員資格保証金預託証書を所持していないことは認めるが、被告が原告からの名義書換申請の受付をすることができないとの主張は争う。

3  被告の主張3は争う。

(一) 本件会員権が二重に譲渡されたことは認めるが、その会員資格保証金預託証書が現在誰が所持しているかは、必ずしも明らかでなく、原告がその引渡を請求することは、事実上不可能であるし、法律的にも、所持者から商事留置権等の主張がなされれば、引渡を求めることができなくなることは明らかである。

(二) 水戸レイクスカントリークラブの会員であった訴外高橋孝吉が本件会員権の原告への譲渡を被告に通知し、その通知が被告に到達している以上、原告が第三者に対抗しうることは明らかである。したがって、第三者が本件会員権の会員資格保証金預託証書を添えて名義書換の申請をしたとしても、被告がその対応に苦慮するとは考えられない。仮にその第三者が訴訟を提起したとしても、原告において、補助参加等の方法により、被告の負担を除去することが可能であるから、被告の主張は失当である。更に、会員資格保証金預託証書を要せずに名義書換を認めることは、定型的な事務処理を行うことができないという点についても、このような事務処理自体は、入会手続全体の流れからすれば、さほど煩雑なものとはいえず、また、そもそも、このような手続が行われるのは極めて例外的な場合に限られるのであるから、これをもって、被告に不利益が生じるということはできないというべきである。

被告の主張するように、名義書換に会員資格保証金預託証書が不可欠とすれば、これを紛失したときは、いかなる場合でも、永久に会員権を譲渡することができなくなり、このような解釈が不当であることはいうまでもないところである。

4  原告は、平成五年九月三日被告に対し、会員資格保証金預託証書以外の必要書類を添えて、本件会員権の名義書換手続をしたが、被告からは、入会の可否について、何らの通知もない。これまでの主張から原告が入会の資格を備えていることは明らかであり、被告が名義書換手続を拒否することは、信義則に反し、許されないというべきである。

(証拠関係)

本件記録の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  訴外高橋孝吉が本件会員権を有する水戸レイクスカントリークラブの会員であったことは、当事者間に争いがなく、甲第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、証人高橋孝吉の証言及び原告本人尋問の結果によれば、訴外高橋孝吉は、平成二年七月二一日株式会社オンを通じて原告に対し、本件会員権を代金二三〇〇万円で譲渡し、同月二三日内容証明郵便をもって、その旨を被告に通知し、同郵便は同月二五日被告に到達したことが認められる(平成二年七月二三日頃訴外高橋孝吉から被告に本件会員権を原告に譲渡した旨の通知が到達したことは、当事者間に争いがない)。

なお、甲第一号証の一ないし四、証人高橋孝吉の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、訴外高橋孝吉から本件会員権の譲渡を受けた際、同人から会員資格保証金預託証書を始めとして、会員の名義書換に必要な書類一式の交付を受けたが、当時被告では、会員の名義書換手続を停止していたため、本件会員権の名義書換の申請を見合わせていたところ、平成三年五月中旬頃になって、被告が名義書換手続を開始したと知って、株式会社オンに名義書換の手続を依頼し、会員資格保証金預託証書等の名義書換に必要な書類を同会社に預けたが、同会社は名義書換手続をする前に倒産し、原告が預けた会員資格保証金預託証書は株式会社センチュリーゴルフ企画の手に渡ったことが認められる。

そして、原告が現在本件会員権の会員資格保証金預託証書を所持していないことは、当事者間に争いがない。

三  本件会員権がいわゆる預託金会員制ゴルフ会員権であり、それが被告に対する契約上の地位であり、その内容が請求の原因3のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そうすると、本件会員権は、指名債権の譲渡と同じ方式によって譲渡することができるものというべきであるから、前記認定の事実によれば、原告と訴外高橋孝吉との関係においては、原告は、本件会員権を平成二年七月二一日有効に譲り受けたものと認められる。そして、訴外高橋孝吉が同月二三日内容証明郵便をもって、本件会員権を原告に譲渡した旨を被告に通知し、同郵便は同月二五日被告に到達したことは、前記認定のとおりであるから、原告に優先して本件会員権の譲渡を受けた者がいるとの主張立証のない本件においては、原告は、被告に対し本件会員権譲渡の事実を主張することができるものというべきである(ただし、被告がその効力を認めなければならないかどうかは、別問題である)。

四 被告は、会員権の譲渡には水戸レイクスカントリークラブの理事会の承認が必要であるところ、原告は、この理事会の承認を得ていないのであるから、被告に対する関係においては、本件会員権の譲渡の効力を主張することができないと主張する。

会員権の譲渡には水戸レイクスカントリークラブの理事会の承認が必要であり、原告が本件会員権の譲渡につき同理事会の承認を受けていないことは、当事者間に争いがない。原告は、入会資格に欠けるところはないから、理事会は、本件会員権の譲渡の承認を拒否することはできない旨主張するが、そのように解すべき合理的根拠は存しないので、この点に関する原告の主張は採用することはできない。そうすると、被告は、現時点においては、本件会員権の原告への譲渡の効力を否認することができるものというべきである。したがって、原告の主位的請求は、名義書換手続の請求を含め、理由がない。

五  次に予備的請求について、判断する。

前記認定判断からすると、原告は、水戸レイクスカントリークラブの理事会の承認をうければ、本件会員権譲渡の効力を被告に対しても主張することができるものというべきである。換言すれば、原告は、同理事会の承認を停止条件として、本件会員権に基づく個人正会員の地位にあるということができる。

これに対し、被告は、所定の手続においては、会員権の譲渡についての水戸レイクスカントリークラブの理事会の承認は、被告が名義書換に必要と定めた会員資格保証金預託証書等の書類の提出を受けて、その審査の結果なされるものであるところ、原告は本件会員権の会員資格保証金預託証書を所持していないので、理事会の審査も受けることはできず、したがって、理事会の承認を得ることはできない旨主張する。

しかし、預託金会員制ゴルフ会員権は、その性質上、指名債権譲渡の方式に従って譲渡することができるものと解すべきであり、前記認定のとおり、訴外高橋孝吉は、平成二年七月二三日内容証明郵便をもって、本件会員権を原告に譲渡した旨被告に通知し、同郵便は同月二五日被告に到達し、その対抗要件を備えているのであるから、被告としては、所定の手続を理由に、原告が会員資格保証金預託証書を所持していないことのみをもって、本件会員権が原告に譲渡されたとの事実を無視することは許されず、原告からの申請があれば、本件会員権の会員資格保証金預託証書の添付がなくとも、本件会員権の名義書換申請を受け付け、水戸レイクスカントリークラブの理事会において、譲渡の承認をするか否かを審査すべきものというべきである。

被告は、会員資格保証金預託証書の提出を絶対的に義務付ける合理性につき種々主張するが(被告の主張3)、その中には首肯しうる点もないわけではない。しかし、最も危惧される二重譲渡の場合については、民法四六七条の規定により解決することが可能であるし、訴訟が提起されたときの応訴の費用等の出捐はゴルフ会員権に限った問題ではなく、合理性を裏付ける根拠としては乏しいものというべきである。定型的事務処理が阻害されるという点についても、本件の如き事例がそれほど頻繁に発生するとは考えられず、被告の主張は誇張されたものといわなければならない。原告が第三者に対抗することができるのであれば、本件会員権の会員資格保証金預託証書を所持する者から同証書の引渡を受けることが可能である筈との主張はもっともな指摘であるが、原告本人尋問の結果によれば、原告は、株式会社センチュリーゴルフ企画を相手として訴訟を提起したが、結局、会員資格保証金預託証書を現に所持する者を把握できず、平成四年一二月に株式会社センチュリーゴルフ企画が三年以内に同証書を原告に返還するとの和解が成立したことが認められ、これによれば、原告が第三者に対抗できる立場にあっても、会員資格保証金預託証書の引渡を受けられないことについて、やむを得ない事由があるものというべきである。

なお、付言するのに、当裁判所も、会員権の名義書換に会員資格保証金預託証書の提出を義務付ける被告の立場と見解に、それなりの合理性を認めないわけではない。しかし、会員資格保証金預託証書は有価証券とは認められないのであるから、会員がその証書を滅失又は紛失した場合における有効な解決策を、誰がどのような方法によってそれを判定するのかを含めて、被告が提示できない以上、被告の見解に賛同することはできないのである。

六  以上の次第であるから、原告の主位的請求は理由がないが、予備的請求は理由がある。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官川﨑和夫)

別紙目録

ゴルフ会員権

名称 水戸レイクスカントリークラブ

種類 個人正会員

債務者 被告

番号 MT―〇四五

預託金 金一〇〇〇万円

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